河野洋平は戦後最も日本を貶めた政治家である


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上智大学名誉教授 渡部昇一
 
どういう経緯で慰安婦問題をめぐる河野洋平官房長官談話が出されたのか。安倍晋三政権は6月20日に、これまでの検証結果となる「慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯~河野談話作成からアジア女性基金まで」と題する報告書をまとめ、公表しました。




 そもそもこの問題は、産経新聞が長年に渡って追及してきた問題でした。河野談話の文言作成過程で日韓のすりあわせが行われてきたと明らかにしたのも産経新聞のスクープでした。河野談話がはじめから韓国の言い分を丸呑みした出来レースだったのではないか、慰安婦からきちんとした聞き取り調査をやっていなかったのではないか、という話はこれまでもありましたが、それらを事実だと明確に特定しました。とても大きな功績だったと思います。政府の報告書は産経新聞の報道が裏付けられた内容といっていいでしょう。これで今後、この問題を論じるさいに必要な、根底となる事実関係が確定したと思うのです。議論が迷走し、錯綜しても、ここから論じていけばいい。スタートラインが明確になったという意味で報告書が公表された意義は大きいと思っています。



 政府は村山談話について継承する立場を取っています。河野談話も検証調査はするけれども、見直しはしないという立場を取ってきました。私は二つの談話には大きな問題があって見直しをしてほしいと考えています。だからこそ調査を最後まで続けたことは良かった。結局、これで「調査の結果、見直す必要がある」といつでも言える状態になったのです。安倍内閣は至上命題を長期政権だとしている。ですから妥協できるものは妥協する姿勢を取っています。当面、取り置いたところで調査の結果は動きません。いつでも河野談話が見直せるのです。



日本の政治家としてどこに心を置いているのか

 それにしても問題だと思うのは、談話を出した河野洋平氏の態度です。今回、6月21日に山口県内で行われた河野氏の講演内容を読みました。慰安婦に話題が及ぶと、結局彼は謝っていないのです。村山談話と河野談話の取り扱いについて安倍内閣が継承すると決めたことについて「内閣が認めた以上は、これ以外の不規則発言は国際社会にも、『それは不規則発言です』と言い、日本の正式の発言、日本の公式な発言は村山談話で河野談話を認めたものだと国際社会にはっきりといわなければいけないと思う」とさえ述べています。私は日本人として不規則なのはどちらだと問いたい思いです。




 実は河野氏が談話を出した平成5年当時、私は彼に対してあまり腹を立ててはいませんでした。記者会見で彼は「従軍慰安婦」の強制連行を認めましたが、戦後のある時期から日本の外務省は万事摩擦回避に走ってしまう傾向が強くなっていました。そういう日本の外務省の掌中で河野さんは談話を発表した。そう見ていました。談話の中身は、もちろん問題があるけれども、韓国側の言い分を聞き、穏便に済ませようとした外務省に本質的な問題があると見て河野洋平という一政治家にはそれほど腹は立てなかったのです。




 しかし、最近になって私のそういう見方は変わりました。その切っ掛けは彼が自分の行動について自己弁護を始めたことでした。例えば2012年8月12日付の朝鮮日報では河野氏は「私は信念を持って談話を発表した」と述べています。また雑誌「世界」5月号でも自己弁護を開陳しながら、安倍首相を批判しています。要は開き直っているのです。彼は自分の弁解が成功すれば、末代まで日本の恥となる嘘が世界の歴史に残ることになることを考えなかったのか。日本の政治家としてどこに心を置いているのか疑わざるを得ない。私は彼を日本人として許せないと思ったのです。




 そして今回河野氏の講演録を読み、政治家として彼を正真正銘の「国賊」だと思いました。「日本人の敵」だと思う。これほど戦後の日本で日本人の名誉を貶め、日本人に恥をかかせた政治家は他にいないのではないでしょうか。村山談話を出した村山富市首相や鳩山由紀夫首相、或いは菅直人首相もけしからんと思います。しかし、後世に至るまで私達日本人の歴史に汚点を残し、辱めたという意味で河野氏は桁違いに罪が大きいと言わざるを得ません。




 講演の中身を少し拾って見ます。国際社会の軍隊で「従軍慰安婦」に相当するものが存在しなかった例などありません。こうした慰安婦のような存在が日本に限らずどこの国にも当たり前にあったのです。自ら積極的につまびらかにする類の話ではありません。それを河野氏は次のように述べています。




《私は、いろんなことを皆さんおっしゃるけれども、歴史は間違っていたことは間違っていたと認めて、謝罪すべきなことはきちっと謝罪する。日本国は国際社会の中で、日本という国はある意味で潔い国だといわれることが一番だと思う。と同時に、昔はそれでよかったとか、よその国でもやっているなどと言うぐらい卑怯な言い訳はない。スピード違反で捕まった人が『悪いのは自分だけではない』と幾ら言っても自分の悪い所を認めなければ駄目です。それは自分を正当化することにはならないと知らなければいけないと思います》




 ならば日本だけが汚名を着なければならないのでしょうか。慰安婦が日本固有の存在でないことくらいはどの国も内心熟知しています。


《私は誠心誠意、日本がやったことへの謝罪をした。それが本当に謝っていないのではないかとなってしまうことが本当に残念です。私は、日本を貶めるようなことを言うはずがない。私がそんなことをするはずがない。私が皆さんの前で申し上げます。内閣官房長官として、自国を貶めるようなことを言うはずないじゃないですか。誠心誠意、何とか日韓二国間の関係をよくしたい、将来にわたって、未来に向かって、そういう気持ちがあればこそ、さまざまな資料を集め、いろんな状況を確認をしながら、努力した。それをぜひ理解してほしい。今、日本がやるべきことは、二国間の信頼関係をできるだけ早く、本当の信頼関係に戻して、そして、お互いが敬意と尊敬できる間柄にする…》




 日本国は周辺国の悪意に包まれています。河野氏の発言はあまりにひどい自己弁護です。「私は、日本を貶めるようなことを言うはずがない」等と聞くと自分の発言がどのような影響をもたらしたのか。全然わかっていないようにも思えます。自分では日韓関係を良くしたようにいいますが、実態は一時的に良くなっても再び険悪になる。その繰り返しでした。そのたびに歴史が蒸し返されました。河野氏の責任は大きいと思いますが、そこはまるで自分に関係ないかのような口ぶりです。




強制連行がなかったといえば良かった


 また河野氏は講演で軍が関与した旨述べています。「軍が関与した」というロジックは加藤紘一氏も使いました。中央大学の吉見義明教授もそう述べていますが、私はこのくらい卑怯な言い方はないと思っています。そもそも日本政府はこのとき、「軍の関与」についてあれこれ言わずに「強制連行などなかった」と明確にいうべきでした。20万人に及ぶ朝鮮半島の婦女子を日本が強制的に拉致したことなどなかった。これは朝鮮人だって認めざるを得ないのです。当時の朝鮮総督府の幹部だった方が述べておりますが、警察官自体の大部分を朝鮮人が務めていたのです。そんななかで朝鮮人の若い女性だけを強制的に掠い集めるなんてやったら大変な騒ぎになってしまいます。ところが当時の朝鮮はどこも平穏でした。常識に照らせば、すぐにわかる話です。




 あくまでも強制連行がなかったということが核心だったのです。慰安婦は確かにいました。しかし、これは日本だけに存在したわけではありません。売春婦を集める民間業者や女衒によって半ば強制的に連れて行かれたという出来事はあったかもしれません。しかし、絶対に日本政府が強制連行したなどという事実はないのです。




 ところが核心部分をきちんと正さずに「軍の関与」などという言葉を持ち出したことがおかしいのです。戦場売春婦の営業するところに兵隊さんが行くのですから、軍としては衛生管理をちゃんとやってくれ、となる。そういう衛生管理をやった業者に対して軍のための営業を認める。これは世界中の軍隊がどこでもやっていたことであって咎められる関与では決してありません。それを十把一絡げに「軍の関与」という極めて幅が広い言葉で括るのは誤解を与えるだけでなく、事柄を見誤らせる間違った言い方だと思います。それどころか日本悪玉史観に基づく国賊行為になるのです。




 河野氏の講演には基本的な誤りも少なくありません。例えば、シナと国交を結ぶ時の話をこう述べているのです。


《そこで中国がやった説明はこういうことです。中国は本当にひどい目に遭った。日本の軍隊に侵略されてひどい目に遭った。中国がひどい目に遭ったのは日本の軍国主義にひどい目に遭ったのだ。日本人は軍国主義者ばかりじゃない。逆に、日本は、日本人自身は軍国主義の下でおおぜい戦死した。特攻隊隊員もいる。みんな軍国主義のなせるわざだ。だから、中国も日本の軍国主義の被害者だ。(中略)敵は日本の軍国主義なのだという理屈でした。(中略)そこで、日本軍国主義者の象徴、日本の軍国主義の典型として、戦争犯罪人、A級戦犯の人達は日本軍国主義者の大本で、絶対に許さないが、それ以外は、この人達の間違った政策で動いた被害者である。(中略)そういう理屈で中国は日本と手を握りました。




 そういう理屈で手を握るのだから、少なくても、日本は、日本軍国主義を復活するとか、日本軍国主義を唱えていた人達を大事にする、尊敬するとか、そういうことをされては困る。ここから派生して、軍国主義の典型、象徴的な人達が祀られている靖国神社に、日本の指導者が行ってお辞儀をするのは困る。嬉しくないね、困るよと言うのです。そこから先は日本側がそうかと。それなら、いやがることはやめようとなった。靖国神社に息子やお父さん、ご主人が祀られてる人達が靖国神社にお参りするのは何も問題ない。当然だと。ただし、軍国主義の象徴にだけ、象徴を拝むのは、具合が悪いというのが、今の靖国神社問題なんです》




 河野氏はA級戦犯について国交を結ぶ当初から問題になった言い方をしていますが、時間的に全然ずれています。そもそもこの説明は「指導者=悪」で「国民=善」だとして分断を図るもので、戦後の左翼が好んで用いた革命につながる論理です。もともとは占領軍がもたらしたもので、東京裁判史観のなかでも最も悪質な論理と言っていい。これは戦前を知らない人のいうことです。




河野氏の不勉強を指摘する


 河野氏は最も肝心なことがわかっていない、と強調したいと思います。例えばそのひとつが東京裁判を開いたマッカーサー自身が、東京裁判を明確に否定しているという点です。

 朝鮮戦争が起こったさい、マッカーサーはトルーマン大統領と意見が合わずに米国に呼び戻され、上院の軍事外交合同委員会という重要な公聴会で証言しました。そこで彼は縷々述べた上で日本の戦争についてこう言っているのです。


 「Their purpose, therefore, in going to war was largely dictated by security.」

 これは「日本の戦争に入った目的は、従って、主として自衛のために余儀なくされたものであった」という意味です。これは東京裁判で「この戦争は侵略戦争ではなく自衛戦争であり国際法には違反しない」と主張し、「国家弁護」を貫きながらも「敗戦の責任」は負うと述べた東條英機首相の宣誓口述書のサマリーと全く同じ論理で、彼は東京裁判を完全に否定しているのです。


 連合国はマッカーサーにすべてを任せて東京裁判を開きました。「A級戦犯」として当時の指導者が処罰されましたが、これは、国際法によらず自分のチャーターで裁いたのです。東京裁判はマッカーサーそのものなんです。そのことがきちんとわかっていれば、マッカーサー証言の持つ意味は重大だとわかるはずです。これはつぶやきや日記などではありません。米国の上院軍事外交合同委員会という公式の場での発言なのです。


 ところが河野氏に限らず、日本の政治家も外交官もこのことをしっかりと認識していないのです。今までいろいろな大使級の方々とお会いする機会がありましたが、この話を知っていて正確にその意味がわかっていたのは私は一人しか出会ったことがありません。日本の外交官たるもの、このことを知らないなんて許されない。本来なら米国に「マッカーサーもこう言っていますよ。日本が戦犯国で悪いことをしたなんて見方はなくなったのですよ」と教えてやるぐらいでなければいけないのです。


 これは余談ですが、では、なぜマッカーサーはこのような発言をしたのだろうか。このごろわかったのは彼は米国に対して腹を立てていたからだろうと思うのです。朝鮮戦争が起きた時、私は大学二年生でした。大学には米国からの神父もいましたが、短時間で決着がつくだろうと皆、思っていました。米国は制空権を握っていたからです。最高司令官はもちろん、マッカーサーでしたが、しかし背後には連合国がいて、例えばマッカーサーがシナの東海岸の港を封鎖したり爆撃することに参加国だった英国が反対してできなかった。また、人民解放軍が来るのを断つために橋を爆撃することも禁止されてしまったのです。


 それで彼は津波の如く押し寄せる人民解放軍を抑えることができなかったのです。制空権を握っていながらですよ。部下が数多く戦死していくのを目の当たりにしながら、マッカーサーはほぞを噛む思いだったでしょう。この悔しさが、恐らく上院での証言につながっているのだと思います。本当の事を明らかにしてやろうと考えたのだと思います。



日本悪玉論に浸かった河野氏の講演

 いずれにしてもマッカーサーのこの言葉を戦後の政治家の多くは正しく認識していました。ですから、敗戦にもかかわらず、中国や韓国にペコペコすることなど全くありませんでした。状況が一変したのは、正式には中曽根内閣以降です。靖国神社に首相が行かなくなったのは中曽根首相以降であってそれまでの自民党の指導者は決して日本が悪いことをしたなどとは全く考えていなかったのです。岸信介首相は当然ですが、三木武夫首相のころまでは昔の話を知っていたからです。

 私だってそうです。戦争が始まる前、日本が締め上げられていくにつれて、自分の生活がじわじわと圧迫されていく感覚がありました。シナがしきりに日本にちょっかいを出して来るのを苦々しく思って見ていたのもよく覚えています。今のシナが尖閣諸島でやっている光景と同じですが、当時は在留邦人が多数襲われる事件が相次ぎ、死傷者が沢山出ていたのです。ですから、あの戦争が紛れもなくシナが始めたものだという認識は当時からあったのです。


 実際に当時を生きていた人間からすれば、大東亜戦争に負けて悔しいとか、戦争に負けたのだから仕方ないなあ、といった思いはあります。しかし、シナや韓国に頭を下げる気など毛頭ないのです。


 ところが、河野さんは違う。彼の話は日本悪玉論に立っている。中国や韓国に無用な贖罪意識すらあります。それは彼の無知によるものなのです。


 彼はきっと日本が中国に戦争を仕掛けたと思っているのでしょう。ですが、例えば東京裁判でシナ事変の責任を日本に問おうとしてもできなかったことはご存じなのでしょうか。マッカーサー証言の持つ意味も正しく理解していたでしょうか。日韓併合もそうです。日本は、韓国併合に別に熱心だったわけではない。一番熱心だったのは米国と英国だったのです。日本は併合する勇気がなくて当時の清国にもロシアにもフランスにもみんな聞いたほどでした。日韓併合について韓国が悪かったというならば、当時のロシアにもシナにも全世界中に文句を言ってほしいものです。そのくらいの認識を持って事に当たらなければいけない。


 それに、日韓併合のわずか三十数年で、著しく立ち後れていた朝鮮半島を一気に近代化してしまったのです。


 ですから別に日本が自慢する必要はないが、ペコペコする必要など絶対ないのです。実際、戦後の総理大臣はそのことを知っていたから全くペコペコしていませんでした。ところが、河野氏はそうではありません。漠然と日本は悪いことをした、謝ることが正しいと思い込んでいるようにしか私には見えないのです。そして何より深刻なのは、河野談話が出されたことで私達の同胞、子孫に図り知れない禍根をもたらされることに、彼が鈍感だということです。あるいは鈍感であることを装っているのかもしれませんが、いずれにせよ講演ではここはほとんど触れられておらず、ここは見過ごせません。


 河野談話によって、今日本人はすさまじい恥辱を受けています。彼は強制連行があったと認めましたが、従軍慰安婦問題で、日本が20万人に及ぶ朝鮮人の若い女性を強制連行したなどと世の中に伝われば、同胞はもちろん、これから生まれてくる私達の子孫にも図り知れない恥辱が負わされることになるでしょう。最近では、性奴隷という不当な言葉に仕立てられて世界中に喧伝されています。事実ならともかく、事実ではないのです。汚名を着せられて私達の同胞がこれから肩をすぼめて生きていかなければならないのです。


 こういう日本を貶める話はヨーロッパで結構、受けいれられてしまっていることも気がかりです。例えばドイツでは「ヒトラーは酷かった」とふだん言われている。そこに「日本もとんでもなかった」といった話が舞い込んでくると、ドイツ人は残念ながらそれを聞いて溜飲を下げてしまうのです。フランスもイギリスだってそうです。日本人について有色人種のなかで優秀だと認識はしているけれども、その日本人が貶められる話は彼らにとって胸をすっきりさせてしまうのです。


 子孫に禍根をもたらすという予兆はすでに至るところにあります。グレンデールはじめ全米各地に慰安婦像が建てられているのもそのひとつでしょう。在留邦人が日本人であるという理由だけで、恥ずかしめを受けたり、屈辱的な思いを味わわされている、という報告も出てきています。


 それがこれから代々、何百年も続き、世界の歴史に残ってしまいかねない。日本国民にとってこんな許し難い話はありません。


 政治家ならば、同胞の行く末をしっかりと案じ、対処していく責任を負っているはずです。しかし、河野氏の発言にはそうした事態への真摯な考察が全然読み取れません。自分の行ったことがもたらした影響を省みていないのです。子孫への禍根に対する発想が微塵も感じられないことは恐ろしいことです。


 百歩譲って談話発表の時点において、今日の事態が予見できなかったとしても、これは致し方ないのかもしれませんが結果責任はあるでしょう。結局、様々な出来事を目の当たりにしてなお、自分の弁護に終始しているということは、結局、彼は日本人という視点が極めて乏しいといわざるを得ません。日本の政治家なら日本のために論じようという姿勢があっていい。ところがそれが感じられない。それは日本や日本人を愛する態度で決してないということだと思います。


政府が認めたのでは埒が明かない


 もうひとつ私の体験をお話ししましょう。


 2007年に米国の下院議員、マイクホンダ氏が日本政府への「慰安婦に対する謝罪要求決議案」を提出しました。当時は、第一次安倍政権でした。安倍さんは訪米し、ブッシュ大統領との会談が控えていました。


 私は訪米直前の安倍さんと食事をご一緒する機会があり、「慰安婦問題はどのようにするおつもりですか」と聞いたことがあります。そのとき、安倍さんは「ブッシュ大統領は慰安婦問題をテーブルに出さないことになっています」と話したのです。そこには外務省の方もいました。安倍さんはブッシュは話題に出さない、さらに新聞記者達に聞かれたさいには「20世紀は人権侵害の多かった世紀であり、21世紀が人権侵害のない素晴らしい世紀になるよう、日本としても貢献したいと考えている」というつもりでいることもうかがいました。それで訪米された。


 外務省はじめ日本政府にはどこか軽く考えていた印象が否めないのです。読みが甘かったのではないか。会談の冒頭でブッシュ大統領は「ミスターアベ、きょうは慰安婦問題と米国産牛肉の対日輸出の件は、話をしたことにしておこう」といいだした。会談後、安倍さんは「極めて苦しい状況におかれたことについて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。20世紀は人権侵害の多かった世紀であり、21世紀が人権侵害のない素晴らしい世紀になるよう、日本としても貢献したいと考えている、と(米議会で)述べた。このような話を本日、大統領にも話した」というとブッシュ大統領は「私は安倍首相の謝罪を受け入れる」。恐らく、大統領は善意のつもりだったのでしょう。メディアは慰安婦問題で安倍さんが大統領に謝罪し、大統領がこれを受け入れたと一斉に報じました。安倍さんは「米国に謝罪したということでは全くない。当たり前の話だ」と強調しましたが、後の祭りでした。謝っていないのに謝った話になってしまったのです。


 報道を見て私は大変なことになったと思いました。それで日下公人さんと一緒に外国人記者を相手にした記者会見に臨みました。慰安婦とは何であるのか、正しく理解してほしい。この思いで記者会見でも時間をかけて力説しましたが、肝心な話はほとんど取りあげられずに終わってしまった。その時、私が身に染みて実感したのは「あなた方の政府が認めているじゃないですか」といわれるとほとんど埒があかないという現実でした。当時はマイクホンダ氏の動きを憂慮して作曲家のすぎやまこういち氏らがワシントン・ポスト紙に「THE FACTS」と題する意見広告を出し、慰安婦問題について強制性はなかったと訴えていました。私だけでなく多くの方が何とか米国国民に真実を知ってもらい、対日謝罪要求決議が採択されないように声を上げ、一定の成果を出していたのです。しかし、私達民間人がいくら走り回ってどんなに力説しようと河野談話で謝罪してしまっている以上、無念ですが通用しない。これが厳しい現実だったのです。


今、日本人がなすべきこと


 日本人が今、なすべきことは何か。それは日本人が河野談話を認めなかったということをハッキリと内外に示すべきです。強制連行が事実でないと消さなければなりません。産経新聞の報道もありました。政府の報告書も出されました。根拠となる事実は出そろった。読めば一目瞭然ですがおかしな経緯です。そして何よりも河野談話を認め続けていれば、同胞とこれからの日本人に対して計り知れない禍根を残すことになってしまう。


 そうした動きを取る際、大切なことがあると私は思います。それは私は2011年11月に河野氏が受章した桐花大綬章を剥奪するということです。これはパフォーマンスでもやらなければなりません。


 なぜか。河野談話を認めないと言いながら、一方で従軍慰安婦の強制連行があった、と言った当事者に国家が勲章を授けている光景は、世界からみて理解できない。通用しない光景だと思うのです。私は河野氏に会ったこともない。個人的な恨みで勲章を剥奪しろと言っているのではないのです。


 大東亜戦争の開戦の時も似たことがありました。真珠湾攻撃の前に現地時間午後一時に国交断絶書を渡す段取りをつけ、米国のハル国務長官の予約を一時に取った。ところが翻訳やタイプが間に合わず、二時に延ばしてしまった。真珠湾攻撃は現地時間一時と二時の間ですから、「外交交渉中に攻撃した」ことになってしまった。これは外務省の出先機関の責任です。ルーズベルト大統領にはここを徹底的に衝かれ世界中に「日本はずるい国だ」という汚名が着せられました。今でもそれが世界中、特に米国人の心の中に残っています。


 問題はこうした責任者は不問に付され、吉田茂首相は彼らを戦後重用したことでした。それどころか悉く勲章を授けてしまっているのです。それで今も日本は「ずるい国だ」などと言われ続けている。やはり、こういう出来事を考えると河野氏の勲章は筋が通らないと思うのです。吉田首相は日本の名誉よりも外務省の名誉を重んじた印象を与えます。今、自民党が河野氏を国会に呼び出さなければ、自民党は日本の名誉よりも仲間の名誉を重んじたことになりましょう。


 河野氏が国会など公の席で自分の発言を認め、謝罪すれば従軍慰安婦問題は終わるのです。あれは私の誤解に基づく誤った発言でした、慰安婦はいましたが、強制連行を認めた発言は間違いでしたと認めればいいのです。私が彼が自分の行いを反省する。そして喧噪が収まったのであれば彼には他にも功績はあるのですから、再び勲章を授けてもいいと思います。しかし、そうでない以上、気の毒かも知れませんが河野氏の勲章を剥奪して、これを世界に発信する。それが日本人の意志を明確に示すことにつながると私は思っています。



渡部昇一氏 昭和5(1930)年、山形県生まれ。上智大学大学院西洋文化研究科修了。独ミュンスター大学、英オックスフォード大学に留学。著書に言語学・英語学の専門書のほか『国民の教育』『名著で読む日本史』など多数。


『月刊正論』 2014年9月号
http://ironna.jp/article/457










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