【国際関係アナリスト北野幸伯】 安倍・トランプ会談大成功の理由を安保・経済・戦略から読み解く

安倍総理は2月10日、米国のトランプ新大統領と会談した。さまざまな面で、今回の会談は大成功だったと言える。世界中が注目したこの会談で話し合われた内容を分析し、今後の日本と世界にどのような変化をもたらすのか、考えてみよう。
(国際関係アナリスト 北野幸伯)


「別荘」「ゴルフ」は トランプの日本重視の表れ

 まずは、会談の中身ではなく「環境」について書こう。10日のワシントンでの首脳会談後、安倍夫妻とトランプ夫妻は、大統領専用機で、フロリダ州パームビーチにあるトランプの別荘に移動した。安倍夫妻は同別荘に2泊し、トランプとゴルフを楽しんだ。


「どこで会うか?」「どのくらいの長さの時間を一緒に過ごすか」――この2つを見れば、米国大統領が会談相手国をどの程度重要視しているかが良くわかる 


「別荘」「ゴルフ」は、トランプが安倍総理を重視している証拠である。

 そのことは、前任オバマ大統領の態度と比べればわかる。安倍氏が総理に就任したのは、2012年12月26日。「リベラル」のオバマ大統領(当時)は、「保守愛国」の安倍総理を嫌っていて、なかなか会おうとしなかった。ようやく初会談が実現したのは、13年2月22日。しかし、会談は、わずか1時間という「冷遇ぶり」だった。

 それとは対照的だったのが、オバマの習近平への「厚遇ぶり」だ。13年6月7日、オバマは習近平と初会談した。注目されたのは、会談場所がホワイトハウスではなく、カリフォルニア州サニーランズにある農園だったこと。そして、会談時間が1泊2日で計8時間だったこと。オバマが当時、安倍総理より、習近平を重視していることは明白だった。


 気分をよくした習は当時、こんな発言をしている。

「世界は、中国と米国が牽引していくG2時代を迎えた。これからは太平洋の東側、すなわち米大陸と欧州は、米国が責任を持って管理する。一方の太平洋の西側、すなわち東アジアは、中国が責任を持って管理する。つまり東アジアのことは、基本的に中国に任せてほしい。そのような『新型の大国関係』を築こうではないか!」

 つまり、東アジアに位置する日本は、「中国の管理下に入る」と言っていたのだ。

 このように、米国大統領がどこの国の首脳を重視しているかは、「どこで会うか?」「どのくらいの長さの時間を一緒に過ごすか?」でわかる。

 だから、安倍総理夫妻を別荘に招き、共にゴルフをするのは、トランプが安倍総理を「重視している」という意味である。そのことを嘆く人もいるだろうが、普通の国民は素直に喜んでいい。



共同声明の中身

 次に会談の内容を見てみよう。トランプ氏は大統領選挙戦中、日本について仰天発言をし、世界を驚かせた。

 1つは、「日本が在留米軍駐留費を増やさないのであれば、米軍を撤退させる」。もう1つは、「日本が核兵器を持つのは悪いことではない」。この発言で、日本人はトランプを恐れた。首脳会談の結果はどうだったのか?

「在留米軍駐留費を増やせ」という話は、まったく出なかった。そして、首脳会談最大の成果は、「共同声明」に記された以下の部分である。(太線筆者)

<両首脳は、日米安全保障条約第5条が(沖縄県の)尖閣諸島に適用されることを確認した。両首脳は、同諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する。日米両国は、東シナ海の平和と安定を確保するための協力を深める。>

 実をいうと、この一文には、「何兆円もの価値」がある。 

 説明しよう。「尖閣有事の際、米国は絶対日本を守りません!」と断言する「専門家」はたくさんいる。「米国が、日本の離島のために、中国と核戦争になるリスクを犯すはずがない」というのだ。

 実際、心配な事例もある。ジョージア(旧グルジア)では03年、革命が起こり、米国の傀儡サアカシビリ政権が誕生した。そして、ジョージアは08年8月、ロシアと無謀な戦争を行い、大敗北している。この時、米国は、もちろんロシアを非難したが、軍事力を使ってジョージアを助けることはなかった。

 結果、ジョージアは、南オセチア、アプハジアを事実上失った。ロシアが、両自治体を「国家承認」したからだ。

 さらに、ウクライナの例もある。14年2月、ウクライナで革命が起こり、親ロシア・ヤヌコビッチ政権が倒れ、親欧米傀儡政権が誕生した。同年3月、ロシアは、クリミアを併合。同4月、ロシア系住民の多いドネツク州、ルガンスク州が独立を宣言し、内戦が勃発した。

 ここでも米国は、ウクライナの「親米傀儡政権」を救うために軍隊を動かすことはなく、ウクライナは事実上、クリミア、ドネツク、ルガンスクを失った。

 もちろん、ジョージアやウクライナは、米国の軍事同盟国ではなく、米国が法的に両国を守る義務はない。しかし、米国の「冷淡さ」は、日本国民に不安を与える。



「尖閣有事」を幾度米国に救ってもらった日本

 とはいえ、この件に関する最重要ポイントは「尖閣有事の際、米国は本当に日本を守るか?」ではない。実をいうと、そんなことは誰にもわからない。最大のポイントは、「尖閣有事の際、『米国が動くかもしれない』と中国が信じていること」なのだ。

 米軍が出てくれば中国に勝ち目はない。だから習近平は、尖閣侵攻を躊躇するだろう。

 これは「理論上」の話だけではなく、実際に証明された事実である。10年9月、「尖閣中国漁船衝突事件」が起こった。どう見ても中国が悪いのだが、同国は「レアアース禁輸」などの制裁を次々と発動し、日本と世界を驚かせた。

 日中関係は極度に悪化したが、日本を救ったのが米国である。クリントン国務長官、ゲーツ国防長官、マレン統合参謀本部議長、オバマ大統領などが、次々と日本を支持する声明を出し、「尖閣は日米安保の適用範囲」と断言した。これで、中国はおとなしくなったのだ。

 その後の12年9月、日本政府は尖閣を「国有化」し、日中関係は「戦後最悪」になった。中国国防相は、日本に「報復する」と宣言し、戦争になる可能性すらあった。実をいうと、この時も日本は米国に救われている。

 習近平(当時、国家副主席)は12年9月19日、米国のパネッタ国防長官と会談した。習は、さんざん日本を非難した後、「米国が釣魚島(=尖閣)の主権問題に介入せず、事態を複雑化させないことを望む」といった。要するに、「この問題に首を突っ込むな!」と脅迫したのだ。

 するとパネッタは、何と答えたか。

「尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲内であり、軍事的な衝突に発展すれば、米国も関与せざるをえない」

 この時、パネッタが「OK!米国は不干渉で行くよ!」と答えたらどうなっただろう?中国は、武力を使って尖閣を奪った可能性も十分にあったと言える。

 これら、比較的最近の例でわかるのは、米政府高官の「尖閣は日米安保の適用範囲」という言葉が、中国に対する「最大の抑止力」になっているということだ。米新政権では、すでにマティス国防長官、ティラーソン国務長官、そして、今回の会談でトランプ大統領が「尖閣は日米安保の適用範囲」と断言している。このことは、日本にとって本当にありがたいことであり、「安倍内閣の大きな成功」ともいえる。



「共通の敵」中国の存在が日米関係を緊密にする

 次に「戦略」の視点から、今回の訪米を考えてみよう。

 外交における国益は、主に「安全」と「経済」(金儲け)だと書いた。では、この2つ、どちらがより大事なのだろうか?

 実は答えは明白で、「安全」の方が、「経済」より上なのだ。なぜかと言えば、これは結局「お金(経済)と命(安全)どっちが大事?」という質問だからだ。答えは明らかで、「命」の方が大事だ。

 そして、過去の例を見ても、「共通の敵」がいるとき、2つの国は一体化する。「最重要課題=敵に勝つこと」になり、その他大部分の問題は、先鋭化しない。

 たとえば、「冷戦時代」を見てみよう。日本と米国には、ソ連という巨大な敵がいた。米国の大戦略は、「日本と西欧を味方につけてソ連を封じ込めること」だった。つまり、日本と米国は「大戦略」が一致していたのだ。

 両国には、対立点もあった。日本の対米貿易黒字が膨らみ、問題になっていったのだ。それでも、最重要課題は「ソ連」であり、日米関係は概して良好だった。

 しかし、1991年末にソ連が崩壊すると、状況は一変する。ソ連という「共通の敵」が消滅し、日本と米国には、共通の大戦略が不必要になったのだ。安全面での懸念が遠のいた結果、金儲けが安全より優先されることになった。 

 米クリントン政権(当時)は90年代、「日本異質論者」を重用し、遠慮なく日本を叩いた。それだけが原因ではないが、日本経済は「暗黒の10年」とも「20年」ともいわれる低迷時代に突入していった。

 しかし、時代は変化している。2015年3月、米国と「特別な関係」にあるはずの英国は、米国の制止を無視し、中国主導「AIIB」への参加を決めた。そして、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエル、オーストラリア、韓国などが、続々と「AIIB」に入っていった。

「親米諸国は、もはや米国ではなく中国の言うことを聞く!」

 この事件の衝撃は、米国を目覚めさせた。こうして、世界は再び「冷戦時代」に向かいはじめた。今度の主役は、米国と中国である。米国は再び「大戦略」を必要としている。その基軸は、先月書いたように「ロシアと和解し、中国と対峙する」である(詳細はこちらの記事を参照)。

 そして、欧州一のパートナーは「EU離脱」を決めた英国であり、アジアでは日本との協力が最重要になる。 

 こういう新冷戦構造の中で、「安保」は「経済」より上になる。それで、「米ソ冷戦時代」にそうであったように、日米関係は好転していくのだ。

 このような背景、時流もあり、今回の安倍訪米は「戦略的大勝利」となった。経済問題では対立を避け、「尖閣は日米安保の適用範囲」と保証させた。日本は、今回の首脳会談で、より安全になったのである。


安倍総理の「成功」は油断すればすぐに水の泡に

 とはいえ、油断は禁物だ。既述のようにオバマは13年、安倍総理を冷遇し、習近平を厚遇した。しかしその後、この3人の関係は急転していく。

 14年3月、ロシアがクリミアを併合すると、オバマは安倍総理に接近しはじめた。「対ロ制裁」に日本を加える必要があったからだ。15年3月、「AIIB事件」で米中関係は最悪になる。

 一方、AIIB参加を見送った大国・日本の地位は、米国内で高まった。そして、翌4月、安倍総理の「希望の同盟演説」で日米関係はさらに好転。オバマをして、「日米関係がこれほど強固だったことはかつてなかった」と言わしめた。

 その一方で、オバマと習近平の関係は、最悪になった。このように、わずか2年で、日米中、安倍・オバマ、習の関係は変転した。だから安倍総理も日本国民も、喜んでばかりいられない。

 ちなみに、トランプは安倍総理との会談の前日、習近平との電話会談で「『一つの中国』の原則を尊重する」と明言、中国政府を歓喜させた。トランプがどんな意図で言ったかはまだ分からないが、個人間の信頼関係と違って、国家間ではこれまで見てきたように、「国益」がすべてに優先する。日本も今回の会談の成功が永続するという保証はどこにもない。

 安倍総理には、「勝って兜の緒を締めよ」という言葉を贈りたい。

2017年2月13日
http://diamond.jp/articles/-/117755



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