ガッツがなければ自立はできない ~ 渡部昇一『自立国家への道』を読む

「自立国家」には「ガッツあるリーダー」が必要だ。



■1.「いま、ガッツあるリーダーが求められている」

 年末に安倍首相が靖国神社を参拝した。それに関する次のような新聞投書に心打たれた。

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 戦死した兄のため、私に代わり参拝してくれたように思え、感激で涙が止まらなかった。感謝したい。(大阪市、72歳女性)[1]
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日本全国で、どれだけの人々が、こういう思いをした事だろう。逆に言えば、今まで中韓の批判で首相の靖国参拝ができなかった事で、こういう人々がどれほどつらい思いをしてきたか、改めて考えさせられた。

 安倍首相はテレビで「誰かが批判するから(参拝)しないのは間違っている。批判されることがあったとしても(首相として)当然の役割、責任を果たしていくべきだ」と語った。[2]

 国のために命を捧げた英霊とその遺族のために、靖国神社を参拝するのは首相としての当然の役割、責任であり、中韓の「ためにする批判」など聞き入れる必要はない、との覚悟である。今までの事なかれ外交、八方美人外交とは「異次元」の外交姿勢である。

 ちょうど正月休み中に読んだ渡部昇一氏の新著『自立国家への道』[3]のプロローグのタイトル「いま、ガッツあるリーダーが求められている」を思い起こした。「ガッツ」は英語でもともと「内蔵」を意味するから、ちょうど大和言葉の「肚(はら)が坐っている」に相当する。安倍首相は、まさに日本が必要としている「ガッツあるリーダー」だろう。

 渡部氏は「自立国家への道」には「ガッツあるリーダー」が重要だと説く。それが、どのようなものか、もう少し、この新著を紐解きながら考えてみたい。



■2.「謝るのは、そこに弱みがあるからで、そこを突け」

 渡部氏は、対中韓外交では特にガッツが必要だ、と指摘する。それは「譲歩すればつけ込んでくるのが中国・韓国流」[1,p131]だからである。

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 たとえば、シナ事変です。日本は連戦連勝、このへんで矛を収めようと停戦の動きに出たことが何度かありました。だが、日本に少しでも停戦の動きがあると、相手は敗戦続きにもかかわらず居丈高になり、高飛車に出てきました。負け続けの側がこういう態度では停戦がまとまるはずもありません。相手は日本が停戦を言い出すのは臆病になったからだ、という受け止め方なのです。[3,p132]
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 中国も韓国も日本が今まで謝り続けても、一向に収まらず、かえって居丈高になる一方である。「心の底から謝れば許してくれる」というのは日本文化の、よく言えば「民度が高い」、悪く言えば「お人好し」の一面だが、中韓の文化は「謝るのは、そこに弱みがあるからで、そこを突け」という過酷なものだ。

 面白い事例がある。中国人民解放軍は朝鮮戦争で半島を蹂躙し、その結果、韓国軍約42万人、民間人106万人が命を失い、1千万人の離散家族が生じた。1992年の中韓国交樹立時に、この被害について中国政府が謝罪するという情報が韓国外務省筋から流され、韓国マスコミが大騒ぎした。

 しかし、駐韓中国大使・張庭延はテレビで「そんなことはあるはずがないし、これからも絶対に遺憾の意を表明する必要はない」と一喝し、それ以来、韓国マスコミは、謝罪に関して一切報道しなくなった。「中国は弱みを見せないから、そこを突いても無駄だ」と韓国は判断したのだった。[a]

 だから、我が国も、中韓が歴史問題を持ち出したら、「いい加減にしろ」と一喝しなければならない。ガッツなき日本外交が、中韓の歴史認識攻撃を延命させてきたのだ。



■3.日米同盟が平和を守る

 中国は尖閣列島ばかりか、沖縄まで狙っている。こういう時に、今までの事なかれ外交でやっていると、中国は「日本は我々を恐れている」と誤解して、返って強気に出て、戦争のリスクを高めてしまう。

 ここでも「ガッツある外交」が必要だと、渡部氏は示唆する。集団的自衛権を確立し、中国の挑発に対して日米同盟が有効に機能する事を示せば、中国は動けなくなる。そして、日本は時間が経過する中で、安定した平和と安全を享受すればいい、とする。

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 では、時間が経過した末にはどうなるのか。これには答えがあります。それはアメリカのジョージ・ケナンの政策でした。

東西対立の冷戦時代、ソ連を中心として衛星諸国で構成された東側の共産圏に対し、西側はアメリカを中心としてカナダ及びヨーロッパ諸国で構成した北大西洋条約機構(NATO)という軍事同盟を結び、各国が集団的自衛権を確立して対峙しました。

それで戦争になったでしょうか。なりませんでした。その時間的経過の末に起こったのがソ連の崩壊だったことは、ご存じの通りです。[3,p51]
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 今や年間30万件の暴動が起き、国民を監視、弾圧するための公安警察などが、軍事費よりも大きな予算を使っている。さらにこの20年で、汚職官僚や国有企業幹部の国外逃亡は1万6~8千人に達し、不法に持ち出した資産は約260兆円にも達するという。

 こんな国が長く続くわけがない。ケナン流に、日米同盟を基軸にオーストラリア、東南アジア、インドなどとの中国封じ込めを行って、破れかぶれの暴発を防ぎつつ、中国の崩壊をじっくり待てば良い。こうしたガッツある外交こそが、日本の平和を守るのである。



■4.放射性廃液の海洋放出に関する「世界に誇れる基準」

 ガッツは国内政治でも必要だ。東日本大震災からの復興を進める上で、多くの障害がガッツの無さから生じている。

 たとえば福島第一原発での汚染水の問題。汚染水がタンクから漏れ出し、地下水に混じって海に流出している、と騒がれているが、問題の根本に、放射性廃液に関する海洋放出基準値がある。

 基準値としては飲料水として飲める程度というのが、一つの目安になっており、それは水1キログラムあたり、アメリカは1200ベクレル、ヨーロッパは1000ベクレルとされている。それが日本では何と10ベクレルである。人間が飲める水よりも、さらに100倍もきれいな水にしないと海に放出できない。

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 これは民主党政権の小宮山洋子厚生労働大臣の時に定められたものです。その理由が「世界に誇れる基準にする」というのだから、非科学的とも何とも、開いた口がふさがりません。その根っこにあるのが反原発であることは明らかです。[3,p80]
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 この「世界に誇れる基準」に縛られ、東電は汚染水の海洋放出ができず、陸上に保管している。そのためにタンクを次々と増やさなければならないし、それに従って水漏れのリスクも高まっていく。



■5.官僚や東電幹部のガッツのなさが問題を引き延ばしている

 そもそも、科学的根拠のない、欧米からもかけ離れた基準を設定する際に、専門知識を持つ官僚の中で体を張って抵抗した人がいたのだろうか。

 いたのかも知れないが、厚労省全体としては、反原発イデオロギーを信条とする素人政治家に押し切られて、馬鹿馬鹿しい基準値になってしまった、という結果を見れば、ガッツのない官僚主義の敗北と言うしかない。

 また、陸上保管という出口のない逃げ道に走った東電幹部のガッツのなさも渡部氏は指摘する。

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 想定外の事故で周章狼狽(しゅうしょうろうばい)したということもあるでしょう。事故によって世間から注がれる激しい目に萎縮したということもあるでしょう。

いずれにしろ、汚染水はALPS(多核種除去設備)で処理し、希釈してすぐに海に流せるよう設備を整えると同時に海洋放出基準値の見直しを求める、という当然の策をとらず、陸上保管という愚策をとらせたのは、世間の厳しい目に迎合(げいごう)し、東電も最良の策を立て懸命に努力したことを示そうとしたからに他なりません。勇気のなさのしからしめるところです。[3,p80]
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 原発事故からの復旧のために必要なのは、技術や資金だけでなく、左翼勢力や事なかれ官僚が設定した障害を取り払い、正道に則った解決策を追究していく、というガッツなのである。そのガッツなくして、速やかな復興はありえない。



■6.オリンピック誤報で露呈した朝日と中国のつながり

 自立のためには外交、内政の両面でガッツが必要なことを述べたが、ややこしいのは中韓と国内左翼が陰で連携していることだ。外と内と、両面でのガッツある戦いが求められている。

 その分かりやすい証左として、渡部氏が上げているのが、先のオリンピック開催地選考での誤報事件である。

 開催地を選ぶ投票結果をいち早く伝えたのが、朝日新聞のツイッターだった。曰く「東京最下位落選。開催地はイスタンブールに決定」との大誤報。これにいち早く乗っかったのが、中国の国営通信社・新華社だった。「東京は惨敗。第一位はイスタンブール」と即座に朝日の誤報を拡散した。

 渡部氏は「この経緯に、ははあ、と思ったのは私だけでしょうか」と問う。

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(教科書問題にしても、靖国参拝にしても)口火を切った言い出しっぺは、『朝日新聞』と決まっているのです。すると、必ず中国の報道機関がこれに呼応し、大々的な反日キャンペーンを張ります。

と、これを受けて『朝日新聞』が問題をさらに煽(あお)り立てます。そこで中国政府が乗り出してきて対日批判のコメントを発し、問題を肥大化させます。すべてがこの経緯をたどって歴史認識とやらを構成していることに気がつくのは容易です。[3,p164]
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 中国の文化大革命の際に、事実を伝える日本の新聞の特派員が次々と追放される中で、朝日新聞だけが特別扱いされ、中国政府の言いなりの報道を続けた、という経緯[b]を知れば、渡部氏の「ははあ」という気づきを穿ち過ぎと考える人はいるまい。



■7.ガッツある言論活動

 日本の自立化のためには、このような内外の陰のコネクションに対しても、戦っていかなければならない。しかし、外交は政府の仕事だが、偏向マスコミとの戦いは民間が主役にならなければならない。この点で、「ガッツあるリーダー」として戦い続けてきたのが、当の渡部氏なのである。

 昭和57(1982)年に朝日新聞が、歴史教科書検定で「侵略」を「進出」と書き改めさせた、と大々的に報じて、早速、中国政府からの抗議が来た際にも、テレビで「その事実はない」と声を上げたのが渡部氏であった[c]。

 靖国問題でも、中国大使との会食の際に、史実に基づいた議論で相手を黙らせている。[d] こういう論争は民間人ならではの事で、政治家や外交官僚は立場上、やりにくい。

 しかし、一昔前までは、朝日新聞や中国を表だって批判することは、危険なことだった。渡部氏も大学での授業の際に、学生運動家たちに妨害されたり、朝日新聞が社内で「打倒、渡部昇一」の掛け声を上げたこともあるようだ。

 今日こそ、朝日や中国の主張がおかしい事が広く知られるようになったが、それも渡部昇一氏を中心とするごく少数の「ガッツあるリーダー」たちの体を張った言論活動によって、ようやく国民が気がつくようになったからだ。

 日本の自立のためには、左傾マスコミの正常化、思想の健全化が欠かせず、そのために不可欠なのは、渡部氏のような国内外の圧力に負けない「ガッツある言論リーダー」なのである。



■8.「独立の気力なき者は、国を思うこと深切ならず」

 日本の自立化のためには、外交や内政、言論など各分野での「ガッツあるリーダー」が必要だ。しかし、自由民主主義国家においては、リーダーを選ぶのも、支えるのも国民であるから、我々自身が「ガッツある国民」にならなければならない。

 いかに「ガッツあるリーダー」を育てるのか、そして、いかに我々自身が「ガッツある国民」になるのか。

 福沢諭吉は「独立の気力なき者は、国を思うこと深切ならず」と説いている[e]。「独立の気力」とは、渡部氏流に「自立国家を目指すガッツ」と言い換えても良い。

「自立国家を目指すガッツ」を持つ者は「国を思うこと深切」となり、逆に「国を思うこと深切」なればこそ、「自立国家を目指すガッツ」も生まれてくる。

 自分の在任期間中だけ無事に済めば良いという私心があったら、首相は靖国参拝などせず、言論人は朝日新聞批判などしないだろう。「国思うこと深切」なるが故に、安倍首相は靖国参拝を断行し、渡部氏は朝日新聞を公に批判した。

 とすれば、我々国民一人ひとりが安倍首相や渡部氏のように「国思うこと深切」になることが、国民のガッツを生み、それが我が国の真の自立につながっていくのだろう。


メルマガ「国際派日本人養成講座」より

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